『一人称単数』

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一人称単数
村上春樹

久しぶりに純粋に楽しめた村上春樹作品。

初期の村上春樹ファンとしては、主人公が村上春樹なんじゃないかと思わせるような設定で、正に「一人称単数」で書かれる物語がたまらない。

もちろん、この短編集の作品にはそれぞれ創作的な要素も入っているし、私小説的な小説ですらない創作物だというのはわかるけど、主人公や設定の随所に村上春樹的要素が散りばめられていた。久々に羊三部作とか「ノルウェイの森」あたりの雰囲気を感じて、往年のファンとしてはニヤけてしまう。やっぱり私は、近年の村上作品よりも、その時代の作品の方が好きなんだなと改めて再認識した。

正直、最新の長編『騎士団長殺し』はまだ読んでないし、前作の『猫を棄てる』は村上信者の私ですら何だかなあと思ってしまうほどだったので(感想差し控えますが)、この『一人称単数』には以前ほど期待はしてなかった。それでも、村上春樹の短編集は好きだし、信者としては一応読んでおくかと思って読んでみたら、結果としては大満足だった。これだから村上信者をやめられないのかもしれない。

中でも好きだったのは、「石のまくらに」、「ウィズ・ザ・ビートルズ」、「品川猿」かなあ。

「石のまくらに」は登場人物の書く短歌がすごく印象的で、小説内の短歌まで秀逸という村上春樹の才能の奥深さを見せつけられた気がした。「ウィズ・ザ・ビートルズ」の日常に潜む不可思議な現象とか、「品川猿」の唐突に動物が人格を持って登場するあたりは、初期の村上作品の香りが色濃く出ていて好きだった。

最後に一応書いてみると、短編集では『納屋を焼く』、『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』が好き。長編は『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、『ねじまき鳥クロニクル』、『海辺のカフカ』。

いつか『ねじまき鳥クロニクル』だけはもう一度読みたいとずっと思っているけど、オフラインで死ぬほど暇を持て余すような生活にならないと難しいだろうな。

…なんて悲観的にならずに、もう一度読めるだけの時間を今年はつくろう。せっかく新年なので、前向きに。

 
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